IT企業のM&A
IT・ソフトウェア業界の動向
- 昨年2018年に実施された国内M&A約3,000件のうち、約1/3がIT・ソフトウェア業界であると言われるほど、近年のM&A市場において最も注目される業界の一つであり、業界再編の真っ只中です。デジタルテクノロジーを駆使したビジネスの変革を意味する「デジタルトランスフォーメーション」が徐々に浸透してきており、今後の新たな事業開発や企業価値向上のためには、最先端のIT技術の導入が重要であると考える経営者が多くなってきております。
- M&Aの買収対象の傾向としては、AI(人工知能・機械学習)、IoT(Internet of things)やドローン、ビッグデータ解析等の最先端技術に関するノウハウを持つベンチャー企業が多く、大手企業がいち早く目をつけ、買収に至るケースやベンチャー企業同士で業務提携を結んだりと形は様々です。また、ひと昔前のようなIT企業同士のM&Aではなく、事業会社によるIT・ソフトウェア企業の買収が多いことも最近の傾向です。
IT・ソフトウェア業界でのM&Aが多い理由
- これほどまでにIT・ソフトウェア業界でのM&Aが多い理由としては、大きく分けて下記の5つが理由として挙げられます。
IT投資への意識変化
- AIやIoT等の技術革新や政府による多重下請け構造是正へ取り組み等により、ビジネスモデル自体の変化が求められており、企業にとってのIT投資の意味合いが、従来の業務効率化やコスト削減から、企業価値を高め競争力を強化するためのIT投資へと変化しつつあります。それに伴い、自社にはない技術及び製品を持つ企業を買収したいというM&Aニーズが高まっています。
競争環境
- 会社設立のための設備投資や運転資本がそれほど必要ない(イニシャルコストが低い)ことから、業界的にも企業数が多く競争が激しい業界です。改正労働者派遣法の施行も要因の一つであり、限られたパイを奪い合う業界構造の中である一定の規模を保ちながら存続していくためには、規模拡大のためのM&Aが必要であり、M&Aニーズの高い業界です
業界特有のビジネスリレーション
- 業界の特性上、開発委託や共同開発を頻繁に行っており、資本の絡まない緩やかな業務提携から資本の絡む資本業務提携、JV設立等、既に何らかの形で提携関係を構築している企業が多くあります。そのため、互いにビジネスの内容や将来ビジョン等を理解していることが多く、初期的な買収検討の際の心理的障害が極めて小さくなります。中には、将来の買収を視野にいれ、業務提携及びマイノリティ出資を実施する企業もあり、M&Aが活発に行われている業界です
盤石な財務基盤
- ここ数年の間、ITの導入と利活用、それに伴う経営改革の重要性が増し、企業のIT投資が活発化することにより、IT・ソフトウェア業界の多くが増収増益という好景気を迎えている。最先端のIT技術(AI・IoT等)を求めて買収する企業だけではなく、単に利益が出ている企業を買収したいという買い手の対象にもなり得る
人手不足
- 次々に生まれる新しい技術をキャッチアップできるエンジニアは限られ、求められる技術レベルも年々高くなってきていることから、企業が最先端の技術力を持った有能なエンジニアを雇うことが難しくなっており、業界全体的に深刻な人材不足に陥っている。そのため、有能なエンジニアを獲得するための手段としてのM&Aが検討される
IT・ソフトウェア業界M&Aにおける初期的考察ポイント
買収戦略と統合プラン(PMI)
- 本件における戦略的意義、シナジー、リスクとその対処法などの基本事項のまとめ
- 買収後の経営体制(経営陣、従業員の処遇)、組織体制(子会社、将来的な合併、組織再編等)、経営スタイル(独立性維持または本体との一体経営)等についての考え方の確立
- PMIプランの策定
買収対象範囲の見極め
- 対象会社の商流や各子会社、関連会社の役割を理解し、対象事業を円滑に推進し、買い手の戦略目的に合致するために保有が必要なエンティティを見極める必要がある
- 保有の必要はないが取引関係の維持が必要なエンティティについては、現状取引条件を精査の上、必要に応じて条件交渉を行うとともに、リスクファクターを排除する
- 地域をまたがって包括的に代理権を得ているソフトウェア製品については、買収対象範囲によってベンダーとの交渉が変化するため、Pros/Consを整理
- キーマンが海外法人に隠れているケースもあり得るため、まずは対象範囲を広げてDDを行い、実態を把握することがベター
非買収対象エンティティの本件ストラクチャー
- 買収対象範囲外については、誰がいくらでどのような条件で引き取るのかについての明確化、またそれが対象会社事業に与える影響の分析
- 100%子会社でないエンティティについては、少数株主及びその意向の理解、場合によっては少数持分取得についても検討
交渉プロセス
- 対象会社の意向は基本合意の締結であるが、それをどこまで飲むのかの検討(一般的に相対交渉において、買い手はDD完了以降まで価格交渉を留保する方が有利となる。また、基本合意で価格をある程度握った場合、その後の価格交渉は「理由付け」が必要となる)
- 基本合意書の内容によっては適時開示の必要が生ずるため、留意が必要
- 対象会社の意向を尊重して基本合意を行う場合、将来の交渉レバレッジを確保するため文言を慎重に検討(この段階で弁護士レビューを行うことが本来的には望ましい)
- DD後の最終契約書(SPA)交渉においては、どちらかがドラフトを提示するかがしばしば争点となるが、近時の国内事例では大きなイシューとならないことが多い
バリュエーション
- 検討時におけるバリュエーションの目線の確認(意向表明書時点での価格に対する上下のバッファーに関する意向を確認)
- シナジー及びディスシナジーについてデュー・ディリジェンス(以下DD)を通じて検討
- 今後の価格交渉に備えてバリュエーションロジックを構築
- 先方の事業計画から買い手として想定し得る合理的なリスクを織り込んだ「Buyer Case」をベースに算定
- 買収対象範囲とバリュエーションの関係については、前提条件を明確にした上で提示し、今後提供される情報によって変更可能な余地を残しておくことが必要
経営陣・従業員のリテンション
- 経営陣が買収後も継続的に事業に関与することを前提とする場合、まずは経営陣との「握り」を優先して行うことが重要(金銭的条件等に優先して基本的な考え方を整理)
- 次いで、経営陣との経済条件を合意することで、買い手側”サークル”に入れることが好ましい。それが達成されれば、キーマンの特定及びキーマンのフライトリスクの判断もより正確となり、効率的なリテンション策が検討可能
- 一方、買収側の経営戦略上、従業員の処遇をできる限りの一本化することが必要な場合には、一時金・移行制度等を組み合わせたパッケージを提案し、円滑な統合を実現
知的財産権の把握
- 自社開発しているツールや、仮に一部パッケージの改変を行っている場合には、知的財産に関する詳細なDDが必要となる。第三者侵害リスク、OSSを利用している場合には、複雑な権利関係の調査等が求められるため、知財弁護士によるレビューが必要と思われる
- 関連する項目として、主要ベンダーが知財関連で問題を起こすリスクについて、事業に与える影響は大きいものの、正確に理解することは困難であるため、デスクトップベースで過去の訴訟関連等を調査の上、一定のコンフォートを得ることを推奨
顧客との関係
- 顧客契約に著しい不平等なものがないかの一般的なDDレビューに加え、ある程度実態把握することが重要となると考えられる(顧客が大企業である場合、どうしても上下関係が厳しくなり、不利な慣行が継続している可能性をチェック)
- エンジニアによるサービスが付加価値の源泉である一方、特定エンジニアが完全な紐付きとなっている等、経営の自由度の面から潜在的な問題となるものがないかを中心にレビュー
- 労使問題
- 一般的な労使関係及び労基問題のレビューに加え、評価制度、昇進制度等についてもDDでレビューを行い、買い手グループの一員となった場合のPMIの問題点を事前に把握することが好ましい
- 長時間労働、不規則労働が常習化している場合、またみなし管理職(逆に非管理職が自由裁量で労働しているケース)の問題等もチェックポイント
- 既存契約の継続
- ベンダーとの契約の継続は、CP(クロージング条件)とすることが必須であるが、売り手にとってはその範囲や内容をできる限り限定したいとの思いが働くため、重要な交渉事項となる可能性が高い
- 買い手にとってベンダーによっては条件交渉を行ってくる可能性については予め想定の範囲内と考えるほうがベター
- 表明保証及び補償
- 企業価値に影響を及ぼすリスクファクターについては、売り手による表明保証を求め、違反した場合には一定の補償を求めることが一般的。ただし、対象会社の株主は個人株主かつ経営陣であるため、補償については限定的とせざるを得ない可能性を予め考慮
- 一般的には、補償キャップをエスクロー口座に保管し、補償期間満了後にリリースする仕組みが用いられることが多い
- 買収ストラクチャーの代替案
- 100%現金による買収が基本シナリオではあるが、状況及び交渉によっては代替案を検討
- 買収価格を将来の業績に連動させる場合には、いわゆるEarn-out(将来の業績に応じて追加支払い)方式を採用
- 段階的買収が好ましい場合には、Put/Callオプション付の多段階ストラクチャーを検討
IT・ソフトウェア業界M&Aを行う際の買い手が抱える不安
- M&Aへの慣れ
大きな買い物なのに、今までやったことがないので、どう進めたらいいか分からない - 検討リソース
通常作業と並行して、「漏れなく過不足なく」M&Aを検討する余力があるか不安 - 対象会社への接触
あの会社に興味があるが、現時点で業界内で噂が立つのは困る - 交渉戦術
言いづらいことを伝えて、破談になったりその後の関係にひびが入るのは避けたい - 買収価格
この価格で買収して、株主への説明ができるだろうか
弊社が担う業務
- M&A戦略の立案、対象先の選定
- 財務アドバイス(企業価値算定等)
- デューデリジェンス(買収精査)支援
- 取引条件・相手方との交渉支援
- 契約書作成、対当局関係折衝等
- 案件全体を見据えたスケジュール管理 等
直近の事例(一部抜粋)
- DeNA、決済代行撤退 NTTデータに子会社譲渡
- DeNAは、決済代行子会社のペイジェント(50%保有)をNTTデータに約63億円で売却
- この売却により、DeNAは決済代行事業から撤退
- 決済代行は競争が激化しており、成長が見込めないと判断
- フリークアウトグループ、タイ・ベトナムにて最大級の女性メディアを運営するSpice Lab Pte.Ltd.を買収
- 2017年末よりSpice Labと資本業務提携締結し、共同で事業を運営してきたが、良好な関係を築き、双方に事業シナジーが確認できたタイミングで買収
- Spiceは月間2,000万PV、ソーシャルアカウントは250万フォロワーを有する東南アジア最大級の女性向けオンラインメディア
- 動画コンテンツ・マーケティング事業を展開するBUZZCAST、アドウェイズと資本業務提携
- YouTuber広告に特化した効果測定ツール「BUZZCAST CLIENTS」を広告主へ導入強化していく事が目的
- MJSグループ、DANベンチャーキャピタルと資本業務提携
- MJSグループがDANベンチャーキャピタルの株式を19%取得
- DANベンチャーキャピタルは、株式投資型クラウドファンディング専用のウェブサイト「GoAngel(ゴーエンジェル)」を運営
- MJSグループは、DANベンチャーキャピタルとともに株式投資型クラウドファンディング向けの開示情報作成支援システムを開発し、MJSがもつ全国8400の会計事務所とのネットワークを通じて、中小企業の資金調達とそれら企業が目指す新たなビジネスの創造をサポート
- DAN ベンチャーキャピタルが組成またはサポートするCVCファンドと、MJSの子会社であるMJS M&Aパートナーズが手掛けるM&A事業と連携することにより、中小・ベンチャー企業の新事業分野への進出や事業成長を投資を通じてサポート
M&A総合アドバイザーズの強み
M&A総合アドバイザーズでは、これまでに200件以上ものM&A案件・株式譲渡・合併・会社分割・株式交換・株式移転・事業譲渡・資本業務提携・グループ内組織再編案件を取り扱っており、M&Aに関する高い専門性と豊富な経験がございます。
また、M&A総合アドバイザーズには、M&A総合法律事務所・M&A総合会計事務所が併設されています。弁護士・公認会計士・税理士とも協働してM&Aに対応いたしますので、ここでも信頼と安心が違います。
介護業界のM&Aにおいても、非常に数多くの実績がございます。
まずは無料相談へ
M&A総合アドバイザーズでは、M&A会社売却を検討中の経営者様からの無料相談を受け付けています。
ご相談内容については、秘密を厳守いたします。
ご不明な点等ございましたら、いつにてもお問い合わせいただけましたら幸いです。
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